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ハウ・トゥ・サクスィード#1

  • 2009/02/27(金) 01:20:30

空は晴。
雲ひとつ無く、陽を遮る物が存在しない足場の上、青年は高層ビルの窓拭きをしていた。
しかし、彼の勤務態度はお世辞にも良いものとは言えないようだ。
時折、綺麗な女性が視界に入ると、目のみが活発に動き、ただでさえ緩慢な動きの手がさらに減速してしまう。
今も缶ビール片手に、女性を目で追う雑な作業を続けている最中である。

(あそこに座ってる人綺麗だなぁ~。おっあのポニーテールの人も捨てがたい。。
ん?おばさんアンタには興味ないぜぇ。。ああっ!)
どうやらそのおばさんに見咎められたようでブラインドを下ろされてしまった。
これで室内は覗けない。

「ああ~。やめだ、やめだ!」
ついには僅かばかりにも動いていた手を完全に停止させ、さらに足場に座り込んでしまった。
缶ビールを喉に流し込むと愚痴を吐き出し始めた。

「何でこの俺がこんな仕事をしなくちゃあいけないんだ。中の奴らは広い部屋で涼しそうーにしやがって。対して俺は忌々しい太陽の下、汗水たらして窓掃除。こんな狭いかごの中・・・ん?」
なんとも悲しい独り言を吐きながら狭い足場を見回してみると、掃除用具の陰に見覚えの無いものが映る。

「なんだ、こりゃ。・・・How to Succeed?成功の仕方ねぇ・・・?」
手にとってみるとなんとも古めかしい本であった。

「胡散臭い。実に嘘臭い。新手の詐欺か何かか?」
ぶつぶつと文句たらしつつも彼の手は項をめくっていく。

「なになに・・・?」
”読者諸君、この本は出世するには何をすべきか、出世のコツを君に教えるものである。”
「ふぅん。面白そうじゃないか。」

”君が若く、健康で、目先が利いて、やる気満々だとしよう。その君がビジネスの世界で楽に、素早く、トップに立ちたいと思っているのなら、そう、君にはそれが出来るのだ!”
「出来るのか!」

”君に学歴、実力、教養があるのならそれに越したことは無い。”
「なんだ、それなら当たり前じゃあないか。実力と教養は兼ねそろえているが、ちょーとばかし学歴がァなァ・・・。」

”だが、無くても出世は出来る!”
「ん?」
”要はやる気次第だ。まずはこの本に書かれている簡単なルールを暗記したまえ。そうすれば、君にも出来るのだ!”
「ふむふむ・・・」

青年は暫く読みふけると急に立ち上がり足場の上昇ボタンを押した。
「よし!初めは職場探しだが、面倒くさいからここの会社で良いさ!初めの役職はメール係、次にデスク!エリート目指して、やがては社長さ!この本のルールに則れば夢じゃァ無いらしいしな。」
そうこうしている間に足場が屋上へ到着する。

「まずはスーツに着替えるためにも家に戻らないとな。」
青年は早足に扉へと向かう。

「おい、お前もう終わったのか?」
別のバイト仲間であろう青年に背中越しに声をかけられた。
青年は勢いそのままに振り返ると声高々に宣言した。

「ああ、終わりさ!このしがないフリーター生活に終止符を打つのさ!そしてこのナントカカンパニーの・・・」
「・・・ワールド・ウィケット・カンパニー。」
「そう!そのワールド・ウィケット・カンパニーの社長になるのさ!ジャック君(仮)にはこのジョナサン・フィンチの華麗なる絶頂への軌跡を語る生き証人となってもらおう!」
そういうと青年―ジョナサン・フィンチは、ジャック君(仮)の返答を端から利く気も無く、高笑いしながら階段を駆け下りていった。

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